漢方の基礎

最終更新:2026年9月23日 / 広告について

ここまでの素材図鑑は、マカや高麗人参のように「ひとつの素材」を取り上げてきました。漢方はこれとは考え方が異なり、複数の生薬を組み合わせた「処方」を、その人の体質や状態(漢方では「証(しょう)」と呼びます)に合わせて選びます。

また、日本で使われる漢方薬の多くは、健康食品ではなく国の承認を受けた医薬品です。その中には、効能・効果に「陰萎(いんい)」、つまり勃起不全を含む処方もあります。このページでは、漢方が活力や精力の衰えをどう捉えるのか、代表的な処方、そして「漢方だから安全」とは限らない注意点をまとめます。

このページの要点

  • 漢方では、精力の衰えを「腎虚(じんきょ)」「気虚(ききょ)」、心の緊張などの観点から捉え、体質に合わせて処方を選びます。
  • 八味地黄丸、補中益気湯、柴胡加竜骨牡蛎湯などは、医療用の添付文書の効能・効果に「陰萎」が含まれています。ただし、ED治療薬の代わりになるものではありません。
  • 甘草による「偽アルドステロン症」など、漢方薬にも副作用があります。複数の漢方薬の重ね飲みには特に注意が必要です。

日本の漢方薬の位置づけ

漢方のイラスト。石の乳鉢と乳棒、乾燥させた根や樹皮などの生薬、紙に包んだ薬

漢方は、中国の伝統医学をもとに日本で独自に発展した医学です。日本の漢方薬には、主に次の3つの入手経路があります。

  • 医療用漢方製剤:医師が処方するもので、148の処方が健康保険の対象になっています。
  • 一般用漢方製剤:薬局やドラッグストアで購入できる市販薬です。パッケージに「体力中等度以下で、疲れやすく…」のように、合う体質と症状が書かれています。
  • 漢方薬局での調合:薬剤師が相談を受け、生薬を調合するものです。

いずれも医薬品であり、「精力剤」「強壮剤」の種類と区分で説明した健康食品とは扱いがまったく異なります。一方で、医療用漢方製剤の多くは長い使用経験をもとに承認されたもので、個々の効能について現代的な比較試験で効果を確かめたものばかりではない、という点も知っておく必要があります。

漢方は「精力の衰え」をどう見るか

漢方では、同じ「精力の衰え」でも、背景にある体の状態によって考え方が変わります。代表的なものは次の3つです。

腎虚(じんきょ):年齢による衰え

漢方の「腎」は、臓器としての腎臓だけでなく、成長・生殖・老化に関わる生命力の源のようなものを指します。年齢とともにこの「腎」の働きが衰えた状態が「腎虚」で、足腰の衰え、夜間の頻尿、耳鳴り、精力の減退などが現れるとされます。腎虚はさらに、冷えが目立つタイプ(腎陽虚)と、ほてりが目立つタイプ(腎陰虚)に分けて考えます。

気虚(ききょ):エネルギー不足

「気」は、体を動かすエネルギーのようなものです。胃腸が弱く食事から十分なエネルギーを取り込めない、病気や疲労が続いて消耗している、といった状態を「気虚」と呼び、全身のだるさや意欲の低下とともに、精力の低下が現れることがあるとされます。

心の緊張・神経の高ぶり

ストレスや不安、神経の過敏さから、眠れない、動悸がする、そして性機能にも影響が出る、という状態もあります。漢方では、こうした精神的な要素に働きかける処方が用いられます。

代表的な処方

以下は、活力や精力の衰えに関して用いられることの多い処方です。どの処方が合うかは体質によって異なるため、表は選ぶための目安ではなく、医師や薬剤師に相談するときの参考としてご覧ください。

処方考え方伝統的に用いられてきた人主な注意点
八味地黄丸
(はちみじおうがん)
腎虚(冷えが目立つ)中高年で疲れやすく、手足が冷えやすく、尿の出が悪い・夜間に頻尿がある。効能に「陰萎」を含む附子(ぶし)による動悸・のぼせ、地黄(じおう)による胃もたれ。胃腸の弱い人、暑がりの人には不向きとされる
牛車腎気丸
(ごしゃじんきがん)
腎虚(冷えが目立つ)八味地黄丸に2つの生薬を加えたもの。足腰のしびれや痛み、むくみ、排尿のトラブルがある八味地黄丸と同様
六味丸
(ろくみがん)
腎虚(ほてりが目立つ)八味地黄丸から附子と桂皮を除いたもの。冷えが目立たず、ほてりやすい地黄による胃もたれ
補中益気湯
(ほちゅうえっきとう)
気虚胃腸が弱く、手足がだるく疲れやすい、食欲がない、病後で体力が落ちている。効能に「陰萎」を含む甘草(かんぞう)を含む。まれに間質性肺炎、肝機能障害
柴胡加竜骨牡蛎湯
(さいこかりゅうこつぼれいとう)
心の緊張比較的体力があり、動悸、不眠、いらだちなどの精神的な症状がある。効能に「陰萎」を含む製品により黄芩(おうごん)や大黄(だいおう)を含む。まれに間質性肺炎、肝機能障害
桂枝加竜骨牡蛎湯
(けいしかりゅうこつぼれいとう)
心の緊張体力が中程度以下で、神経が過敏で疲れやすい甘草を含む

補中益気湯には、高麗人参と同じ「人参」が含まれています。高麗人参の健康食品と一緒にとると、同じ生薬を重ねてとることになります。

研究で分かっていること

テーマ根拠の強さひとことで
勃起機能不十分効能に「陰萎」を含む処方はあるが、偽薬と比べた質の高い試験は乏しい
疲れやすさ・体力の低下不十分補中益気湯などで研究はあるが、対象や条件がさまざまで結論は出ていない

漢方薬は、体質に合わせて処方を選ぶという性質上、「全員に同じ薬を飲んでもらって偽薬と比べる」という一般的な試験の形になじみにくい面があります。そのため、活力や精力に関する効果を、素材図鑑の他の素材と同じ基準で評価すると「不十分」になります。ED治療薬のような確実な効果を期待するものではなく、疲れやすさや冷え、胃腸の弱さ、不眠など、全身の状態を整えることを目的に使われている、と理解するのが適切です。

「漢方だから安全」ではない

知っておきたい主な副作用

  • 偽アルドステロン症(甘草):甘草を含む処方で、体内のカリウムが減り、むくみ、血圧の上昇、手足のだるさや力が入らないといった症状が出ることがあります。甘草は非常に多くの漢方薬に含まれているため、複数の漢方薬を重ねて飲むと量が増えやすく、特に注意が必要です。
  • 動悸・のぼせ・舌のしびれ(附子):附子はトリカブトを加工して毒性を弱めた生薬で、八味地黄丸や牛車腎気丸に含まれています。
  • 間質性肺炎・肝機能障害:まれですが、補中益気湯や、黄芩を含む処方などで報告があります。空咳、息切れ、発熱、体のだるさ、白目が黄色くなるなどの症状が出たら、すぐに服用を中止して受診してください。
  • 胃腸の症状(地黄など):胃もたれ、食欲不振、下痢などが起きることがあります。

病院で漢方薬を処方されている方が、市販の漢方薬や健康食品を追加する場合は、必ず医師や薬剤師に伝えてください。お薬手帳に市販の漢方薬も記録しておくと安心です。

漢方を試したいときは

  • まず原因を確認する:勃起の問題が続く場合は、高血圧・糖尿病など血管の病気や、男性ホルモンの低下が隠れていないかを先に確認することが大切です。漢方はその後、あるいは並行して検討するものです。
  • 医師に相談する:漢方外来や、漢方に詳しい医師のいる医療機関では、体質を診たうえで保険の範囲で処方を受けられます。ED治療薬と漢方薬を組み合わせることもできます。
  • 市販薬を選ぶ場合:パッケージの「体力〇〇で、〜のもの」という表示が自分に合っているかを確認し、薬剤師や登録販売者に相談してください。1か月ほど飲んでも変化がない場合や、体調が悪くなった場合は、中止して相談しましょう。

参考文献・資料

  1. 各医療用漢方製剤の添付文書(八味地黄丸、補中益気湯、柴胡加竜骨牡蛎湯ほか).
  2. 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト(eJIM). https://www.ejim.mhlw.go.jp/
  3. 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症」.

※本ページは情報提供を目的としたもので、処方の選択や診断・治療に代わるものではありません。詳しくは免責事項をご覧ください。