トンカットアリ(Eurycoma longifolia)
トンカットアリは、マレーシアやインドネシアなど東南アジアの熱帯雨林に生える樹木で、その根が伝統的に強壮や解熱に使われてきました。近年は「男性ホルモンを高める」素材として、海外製を中心にサプリメントが数多く出回っています。
この図鑑でこれまで扱った素材の多くは、男性ホルモンを増やす根拠がありませんでした。その中でトンカットアリは、男性ホルモンの値が上がったという複数の比較試験がある、珍しい素材です。ただし、試験の数も規模もまだ小さく、そして日本では、この名前を冠した製品から医薬品成分が見つかった事例もあります。
このページの要点
- 5件の比較試験をまとめた2022年の分析で、男性ホルモン(テストステロン)の値が上がったと報告されています。ただし、試験の数・規模は小さく、確かな結論には至っていません。
- 勃起機能や性欲への効果は、はっきりしていません。
- 東京都の検査で、トンカットアリの名前を冠した製品から、勃起不全治療薬によく似た医薬品成分が検出されたことがあります。
研究で分かっていることの早見表
根拠の強さは、当サイトの編集方針で定めた4段階で示しています。
| テーマ | 根拠の強さ | ひとことで |
|---|---|---|
| 男性ホルモンの値 | 限定的 | 複数の比較試験で上昇の報告。特に男性ホルモンが低い人で。ただし試験は少なく小規模 |
| 勃起機能・性欲 | 不十分 | 研究はあるが結果がはっきりしない |
| 筋力・運動 | 不十分 | 小規模な研究にとどまる |
トンカットアリとは
トンカットアリ(学名 Eurycoma longifolia)は、ニガキ科の樹木です。名前はマレー語で「アリ(人名)の杖」を意味し、長くまっすぐに伸びる根の形に由来するとも言われます。根はとても苦く、現地では煎じて飲まれてきました。
主な成分として、「ユーリコマノン」などの苦味成分や、糖を含む成分(グリコサポニンなど)が知られています。マレーシアでは国を挙げて研究と産業化が進められており、成分量を管理した特定の抽出物を使った研究が多いのも特徴です。
研究で分かっていること
男性ホルモン(テストステロン)
2022年に発表された分析では、9件の研究を検討し、そのうち5件の比較試験の結果をまとめて評価しました。その結果、トンカットアリを摂った男性ではテストステロンの値が有意に上がっており、この傾向は、男性ホルモンが低下している男性だけを取り出して調べた場合にも確認されました。著者らは、男性ホルモンが低下している男性にとって有望な選択肢になりうるとしつつ、実際の治療に使う前にはさらなる研究が必要だと結論づけています。
読むときに気をつけたい点もあります。
- まとめられた比較試験は5件だけで、いずれも規模が大きくありません。
- 使われた製品や量、期間、対象者が試験ごとに異なります。
- 「値が上がった」ことと、疲れやすさや性機能などの症状がはっきり良くなることは、同じではありません。
また、男性ホルモンの低下(男性更年期、LOH症候群)は、医療機関で血液検査によって診断でき、必要に応じてホルモン補充などの治療が受けられる状態です。自己判断でサプリメントを試す前に、まず検査を受ける価値があります。
勃起機能・性欲
性欲や勃起機能を調べた研究もありますが、規模が小さく、他の成分との配合製品を使ったものも含まれるため、トンカットアリそのものの効果ははっきりしていません。
まだ分かっていないこと
- 大規模な試験で確かめた効果と、効果の大きさ
- 数か月を超えて飲み続けたときの安全性
- 男性ホルモンが上がることが、前立腺など他の臓器にどう影響するか
- 他の薬との飲み合わせ
安全性と、注意が必要な人
国内でも医薬品成分の混入が見つかっています
東京都が都内の店舗から購入して検査した「トンカットアリ」の名前を冠した製品から、勃起不全治療薬(シルデナフィル)によく似た構造の医薬品成分が検出され、各自治体が購入や使用をやめるよう呼びかけました。こうした成分は、狭心症などで硝酸薬を使っている方が併用すると、急激な血圧低下を起こすおそれがあります。
「飲んですぐ効いた」と感じるような製品は、トンカットアリそのものではなく、混入した医薬品成分が効いている可能性を疑ってください。
次に当てはまる方は、使う前に医師や薬剤師に相談してください。
- 前立腺がん・乳がんなど、ホルモンが関係する病気の治療中・治療歴がある方:男性ホルモンの値を上げる可能性があるため、病気に影響するおそれがあります。
- 男性ホルモンの補充療法を受けている方、不妊治療中の方
- 持病があり、薬を飲んでいる方:飲み合わせに関する情報がほとんどありません。
- 女性、未成年、妊娠中・授乳中の方:安全性を確かめたデータがなく、ホルモンへの影響も考えられるため、使用は避けてください。
また、熱帯地域の植物原料からつくる製品では、重金属などの混入も懸念されます。検査結果が示されている製品を選んでください。
品質の選び方
- 原料と量:根の抽出物であること、1日あたり何mg含まれているか、抽出物の種類や濃縮の程度が明記されているか。
- 他の配合成分:海外製の「男性向け」製品では、日本で医薬品成分として扱われるヨヒンベなどが組み合わされていることがあります。
- 販売経路:個人輸入やフリマアプリ、出どころの分からない通販での購入は避け、国内の販売者名・所在地・問い合わせ先がはっきりした製品を選んでください。
- 検査:重金属や医薬品成分の検査結果が示されているか。
- 表現:「男性ホルモンが増える」「精力が回復する」など、体の機能への効果をうたう表現は、食品では認められていません。
製品選び全般のチェックポイントは品質の見分け方、表示のルールや医薬品成分の混入については「精力剤」「強壮剤」の種類と区分をご覧ください。
こんなときは医療機関へ
- 性欲の低下、疲れやすさ、気分の落ち込み、筋力の低下などが続き、男性ホルモンの低下が気になる。泌尿器科などで血液検査を受けられます。男性ホルモンの低下が確認されれば、治療の選択肢があります。
- トンカットアリなどの製品を飲んで、動悸、ほてり、頭痛、めまいなどがあった。医薬品成分が混入していた可能性があります。
参考文献
- Leisegang K, Finelli R, Sikka SC, Panner Selvam MK. Eurycoma longifolia (Jack) Improves Serum Total Testosterone in Men: A Systematic Review and Meta-Analysis of Clinical Trials. Medicina (Kaunas). 2022;58(8):1047.
- A 6-month, double-blind, placebo-controlled, randomized trial to evaluate the effect of Eurycoma longifolia (Tongkat Ali) and concurrent training on erectile function and testosterone levels in androgen deficiency of aging males (ADAM). Maturitas.
- 東京都「医薬品成分を含有する製品の発見について」(各自治体による注意喚起).
- 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」. https://hfnet.nibn.go.jp/
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