田七人参(Panax notoginseng)

最終更新:2026年9月23日 / 広告について

田七人参(でんしちにんじん)は、中国南西部の高地で栽培されるウコギ科の植物で、根が生薬として使われてきました。「金不換(きんふかん)」という異名や「止血の名薬」という伝承で知られ、日本でも健康食品として広く流通しています。一方で、ネット上ではマカや高麗人参と混同された説明も多く見かけます。このページでは、田七人参について分かっていること・分かっていないこと・注意点を整理します。

このページの要点

  • 伝統的には「止血」と「血のめぐり」の生薬で、いわゆる精力・強壮の素材ではありません。
  • 人での研究の多くは、中国で医薬品として承認された抽出製剤を、脳梗塞などの患者に使ったものです。健康食品の田七人参粉末に、そのまま当てはめることはできません。
  • 血液の固まり方に影響する可能性があるため、血液をサラサラにする薬を飲んでいる方は、自己判断で使わないでください。

研究で分かっていることの早見表

根拠の強さは、当サイトの編集方針で定めた4段階で示しています。

テーマ根拠の強さひとことで
脳梗塞後の回復限定的医薬品の抽出製剤で大規模な試験があるが、患者が治療の一部として使ったもの。健康食品には当てはまらない
狭心症などの心臓の病気不十分中国で多数の試験があるが、試験の質に課題が多い
止血不十分伝統的な用途で、成分の働きは実験で調べられているが、健康食品として飲んだ場合の人での確認はない
「血液サラサラ」不十分試験管や動物で血小板への作用が示されているが、健康な人での効果は確かめられていない
肝臓の保護・がんの予防不十分動物実験や試験管の研究にとどまる
精力・活力の向上不十分人での研究は見当たらず、伝統的な用途でもない

田七人参はどんな植物か

田七人参のイラスト。手のひら状の葉と赤い実、ごつごつとした硬い根
田七人参:葉と赤い実、ごつごつとした根

田七人参(学名 Panax notoginseng)は、高麗人参(朝鮮人参)と同じウコギ科パナックス属の多年草です。中国の雲南省南東部の文山(ぶんざん)地域が主な産地で、生薬として使われるのは、ごつごつとした硬い根の部分です。中国では薬局方に収載された「医薬品」として扱われていますが、日本では健康食品として販売されている製品が多くあります。

いくつもの呼び名があり、名前の由来には諸説あります。

  • 三七人参(さんしちにんじん):収穫できる大きさに育つまでに3〜7年かかるから、あるいは3本の茎にそれぞれ7枚の葉がつく姿から、と言われます。
  • 田七人参:かつての集散地であった広西の田陽・田東という地名に由来するという説があります。
  • 金不換:「金にも換えがたい」という意味で、その貴重さを表した異名です。

明の時代に李時珍がまとめた薬学書『本草綱目』にも記載があり、打ち身や出血、腫れや痛みに用いる生薬として扱われてきました。

よくある誤解

「マカ」の話と混同されている

「雲南省原産」「金不換」「止血作用」「デンシチン」といった説明が、マカの効能として紹介されていることがあります。これらはすべて田七人参についての話です。マカは南米アンデス原産のアブラナ科の植物で、田七人参とはまったく別物です。詳しくは素材図鑑:マカをご覧ください。

高麗人参と同じようなもの、ではない

田七人参と高麗人参は同じ仲間の植物で、共通する成分(サポニン類)も含んでいます。しかし、成分の組み合わせや比率は異なり、漢方での使われ方も違います。高麗人参が「気を補う」強壮の生薬として使われてきたのに対し、田七人参は「出血を止め、血のめぐりを整える」生薬として使われてきました。「人参」という名前が同じでも、期待される役割は別物と考えてください。高麗人参については素材図鑑:高麗人参で解説しています。

「デンシチンは田七人参だけの成分」ではない

止血に関わる成分として知られるデンシチンは、田七人参以外のパナックス属の植物にも含まれています。また、同じ物質(β-ODAP)は、グラスピー(ガラスマメ)という豆にも含まれ、この豆を長期間大量に主食として食べ続けた地域では、神経の障害を起こす原因物質として知られてきました。田七人参の摂取でこうした障害が起きたという報告は見当たりませんが、「天然の成分だから安心」とも「特別な成分だからよく効く」とも言い切れない、ということは知っておいてよいでしょう。

主な成分

田七人参の根には、「サポニン」と呼ばれる成分が数十種類含まれています。高麗人参と共通するものもあれば、田七人参に特徴的なもの(ノトギンセノシド類)もあります。そのほか、上で触れたデンシチンなどのアミノ酸類も含まれます。

興味深いのは、サポニン類には試験管や動物の実験で「血小板が固まるのを抑える」方向の作用が、デンシチンには「血を止める」方向の作用が報告されていることです。伝統医学では、この一見矛盾する性質を「止血しながら、血のめぐりを良くする」と表現してきました。ただし、実際に人が飲んだとき体の中でどちらの作用がどう現れるのかは、よく分かっていません。この点は、後で述べる「飲み合わせ」の注意にもつながります。

研究で分かっていること

脳梗塞後の回復

中国では、田七人参のサポニンを抽出した製剤が、脳梗塞などの治療薬として承認されています。2023年に発表された試験では、中国の67施設で、発症から14日以内の脳梗塞の患者約3,000人に、この製剤か偽薬を3か月間飲んでもらいました。その結果、3か月後に日常生活を自立して送れていた人の割合は、製剤のグループで約89%、偽薬のグループで約82%と、製剤のグループのほうが高くなりました。重い副作用の発生率に差はありませんでした。

規模の大きな試験ですが、以下の点に注意が必要です。

  • 対象は脳梗塞の患者で、病院での標準的な治療に上乗せして使われたものです。
  • 使われたのは有効成分の量を管理した医薬品で、健康食品の田七人参粉末とは別物です。
  • 参加者の多くは症状が比較的軽い患者でした。また、試験の資金の一部は製剤の製造に関わる企業から提供されています。

この結果から「田七人参のサプリメントが脳卒中を予防する」と考えることはできません。

狭心症などの心臓の病気

冠動脈の病気を対象にした試験も中国で数多く行われ、それらをまとめた系統的レビューもあります。ただし、含まれる試験の多くは規模が小さく、試験の方法にも課題が多いため、確かな結論は出ていません。

止血・「血液サラサラ」

止血は田七人参のもっとも伝統的な用途で、成分の作用は実験室で研究されています。しかし、健康食品として飲んだ場合に、出血が止まりやすくなる、あるいは血栓ができにくくなるといった効果が人で確かめられているわけではありません。

精力・活力

田七人参を精力や活力の向上と結びつける人での研究は、確認できませんでした。そもそも伝統的な用途も異なります。滋養強壮を目的とするなら、別の素材を検討するほうが筋が通っています。

まだ分かっていないこと

  • 健康な人が健康食品として飲んだときの、はっきりした効果
  • 医薬品の抽出製剤での結果が、根の粉末にどこまで当てはまるのか
  • 長期間飲み続けたときの安全性
  • 中国以外の人を対象にした、質の高い研究

安全性と、注意が必要な人

血液をサラサラにする薬を飲んでいる方へ

ワルファリンなどの抗凝固薬や、アスピリン・クロピドグレルなどの抗血小板薬を飲んでいる方は、自己判断で田七人参を使わないでください。シンガポールで使われる中国の生薬とワルファリンの相互作用を調べたレビューでは、田七人参は、相互作用の可能性を示す根拠がもっとも強いグループに挙げられています。薬の効き方が変わり、出血しやすくなる、あるいは効果が弱まるおそれがあります。

このほか、次に当てはまる方は、使う前に医師や薬剤師に相談してください。

  • 妊娠中・授乳中の方:安全性を確かめたデータがなく、伝統医学でも妊娠中は避けるべき生薬とされています。
  • 手術や抜歯の予定がある方:血液の固まり方に影響する可能性があるため、飲んでいることを必ず医師・歯科医師に伝えてください。
  • 出血しやすい病気がある方、月経の出血が多い方
  • 持病があり、薬を飲んでいる方

飲み始めてから、あざができやすい、鼻血や歯ぐきからの出血が増えたなどの変化があった場合は、飲むのをやめて医療機関に相談してください。

品質の選び方

製品を選ぶ場合は、次の点を確認すると判断しやすくなります。

  • 使用部位:根(主根)なのか、ひげ根や茎葉、花なのか。部位によって成分は大きく異なります。
  • 1日あたりの量:1日の目安量あたり、田七人参が何mg(何g)入っているか。抽出物の場合は、濃縮の倍率やサポニン量の表示があるか。
  • 産地と等級:産地の表示があるか。田七人参の根は、一定の重さあたりの根の数(「頭数」)で等級が表されることがあり、数が少ないほど1本あたりが大きいことを示します。
  • 検査:残留農薬や重金属などの検査結果が示されているか。
  • 販売者の情報:国内の販売者名・所在地・問い合わせ先がはっきりしているか。
  • 表現:「血栓を防ぐ」「脳梗塞を予防する」など、病気への効果を断定する表現は、食品では認められていません。医薬品での研究結果を、健康食品の効果であるかのように見せる宣伝には注意してください。

製品選び全般のチェックポイントは品質の見分け方、表示のルールや医薬品成分の混入については「精力剤」「強壮剤」の種類と区分をご覧ください。

こんなときは医療機関へ

  • 動脈硬化や血栓が心配で、予防のために田七人参を検討している。血圧・血糖・脂質の管理や、必要に応じた薬の治療が、予防の基本です。まずかかりつけ医に相談してください。
  • 片側の手足のしびれや力が入らない、ろれつが回らない、顔の片側がゆがむなどの症状が急に出た。脳卒中の可能性があるため、すぐに救急車を呼んでください。
  • あざや出血が増えた、出血が止まりにくいと感じる。

参考文献

  1. Wu L, Song H, Zhang C, et al. Efficacy and Safety of Panax notoginseng Saponins in the Treatment of Adults With Ischemic Stroke in China: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2023;6(6):e2317574.
  2. Oral Panax notoginseng preparation for coronary heart disease: a systematic review of randomized controlled trials. 2013. (PMC3762143)
  3. Interaction between warfarin and Chinese herbal medicines. (PMC4325561)
  4. Analysis of dencichine in Panax notoginseng by gas chromatography–mass spectrometry with ethyl chloroformate derivatization. J Pharm Biomed Anal. 2007. (PMID: 17029672)
  5. 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」. https://hfnet.nibn.go.jp/
  6. 厚生労働省「統合医療」情報発信サイト(eJIM). https://www.ejim.mhlw.go.jp/

※本ページは情報提供を目的としたもので、診断や治療に代わるものではありません。詳しくは免責事項をご覧ください。