亜鉛(Zinc)
亜鉛は、体内で300種類以上の酵素のはたらきに関わる必須ミネラルです。「男の栄養素」「精力のミネラル」として精力系サプリの定番成分になっていますが、ここまでの植物素材と違って、亜鉛には国が定めた摂取基準があり、「足りないと何が起きるか」「摂りすぎると何が起きるか」がかなりはっきり分かっています。
そのため亜鉛について考えるときの出発点は、「効くかどうか」ではなく「自分は足りているかどうか」です。
このページの要点
- 亜鉛が不足している人では、補うことで男性ホルモンの値が回復したという報告があります。
- 亜鉛が足りている人がさらに摂っても、男性ホルモンが増えるという根拠はありません。
- 不妊治療中の男性2,370人を対象にした大規模な試験では、亜鉛と葉酸のサプリで精液の状態も出産率も改善しませんでした。
- 摂りすぎると銅が欠乏し、貧血や神経の障害を起こすことがあります。サプリの「重ね飲み」に注意してください。
研究で分かっていることの早見表
根拠の強さは、当サイトの編集方針で定めた4段階で示しています。
| テーマ | 根拠の強さ | ひとことで |
|---|---|---|
| 不足による症状(味覚障害・皮膚炎など)の改善 | 一定の根拠あり | 亜鉛が不足している場合に限る。診断と治療は医療機関で |
| 不足している人の男性ホルモン | 限定的 | 不足を補うと回復したという報告があるが、小規模で比較対照のない研究 |
| 足りている人の男性ホルモン | 否定的 | さらに摂っても男性ホルモンは増えないという報告 |
| 精液の状態・妊娠 | 否定的 | 大規模な比較試験で、精液の状態も出産率も改善しなかった |
| 勃起機能 | 不十分 | 亜鉛単独での質の高い研究は見当たらない |
亜鉛の役割
亜鉛は、たんぱく質や遺伝子(DNA)をつくる酵素、細胞が増えるときに必要な酵素など、体中の多くの酵素に組み込まれて働いています。そのため、不足すると新しい細胞がさかんに作られる場所、たとえば舌の味を感じる細胞、皮膚、粘膜、髪、精子をつくる精巣などに影響が出やすくなります。
国の制度である「栄養機能食品」では、亜鉛について次の3つの機能を表示することが認められています。
- 味覚を正常に保つのに必要な栄養素
- 皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素
- たんぱく質・核酸の代謝に関与して、健康の維持に役立つ栄養素
「精力」や「男性ホルモン」に関する表示は、この中に含まれていません。
1日にどれくらい必要か
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人の亜鉛の推奨量(ほとんどの人が必要量を満たす量)と、耐容上限量(習慣的に摂っても健康被害が出ないとされる上限)が次のように定められています。
| 区分 | 推奨量(1日) | 耐容上限量(1日) |
|---|---|---|
| 男性 18〜29歳 | 9.0mg | 40mg |
| 男性 30〜64歳 | 9.5mg | 45mg |
| 男性 65〜74歳 | 9.0mg | 45mg |
| 男性 75歳以上 | 9.0mg | 40mg |
| 女性 18〜29歳 | 7.5mg | 35mg |
| 女性 30〜64歳 | 8.0mg | 35mg |
| 女性 65〜74歳 | 7.5mg | 35mg |
| 女性 75歳以上 | 7.0mg | 35mg |
耐容上限量は、食事とサプリメントを合計した量です。推奨量と上限量のあいだにはかなりの余裕がありますが、複数のサプリメントで亜鉛を重ねて摂ると、気づかないうちに上限に近づくことがあります。
亜鉛が不足しやすい人と、不足のサイン
亜鉛は肉や魚介類に多く、普通に食事をしていれば極端に不足することは多くありません。ただし、次のような人は不足しやすいことが知られています。
- 高齢の方(食事量の減少や吸収力の低下)
- 極端な食事制限や偏った食事をしている方
- お酒をたくさん飲む方
- 慢性の胃腸・肝臓・腎臓の病気や、糖尿病がある方
- 一部の利尿薬など、亜鉛の排出を増やす薬を長く飲んでいる方
不足したときに現れやすいサインには、味が分かりにくい・おかしい(味覚障害)、皮膚炎、口内炎、脱毛、傷が治りにくい、食欲がない、貧血などがあります。
不足が気になるときは、まず血液検査を
亜鉛が足りているかどうかは、血液検査(血清亜鉛値)で調べることができます。医療機関で亜鉛欠乏と診断された場合は、医薬品の亜鉛製剤による治療が行われます。自己判断でサプリメントを大量に摂るより、確実で安全です。
研究で分かっていること
男性ホルモン:「足りない人」と「足りている人」で話が違う
亜鉛と男性ホルモン(テストステロン)の関係でよく引用されるのが、1996年に発表された米国の研究です。
- 健康な若い男性4人に、亜鉛の少ない食事を20週間続けてもらったところ、テストステロンの値が大きく下がりました。
- 軽い亜鉛不足があった高齢男性9人に、亜鉛を3〜6か月補ったところ、テストステロンの値が上がりました。
この研究は、「亜鉛不足が男性ホルモンの低下につながりうる」ことを示す重要な研究ですが、参加者はごく少数で、比較のための偽薬のグループもありません。そして、あくまで不足している状態を扱ったものです。
一方、亜鉛を十分に摂っている男性に、亜鉛を含むサプリメントを追加した試験では、テストステロンの値に変化は見られませんでした。つまり亜鉛は、不足を「元に戻す」ことはあっても、足りている人の男性ホルモンを「上乗せする」ものではないと考えられます。
精液の状態と妊娠
亜鉛は精巣や精液に多く含まれ、精子をつくるのに欠かせません。そのため、亜鉛と葉酸は男性向けの妊活サプリの定番成分になっています。
この組み合わせを検証するため、米国で大規模な比較試験が行われました。不妊治療を受けているカップルの男性2,370人を、亜鉛(1日30mg)と葉酸を6か月間飲むグループと、偽薬を飲むグループに分けて比べたところ、出産に至った割合はどちらも約34%で差がなく、精子の濃度や運動率などにも改善は見られませんでした。
この結果は、亜鉛が足りている人に、サプリで上乗せしても意味がないことを示す有力な根拠になっています。
勃起機能
亜鉛単独で勃起機能を調べた質の高い研究は、見当たりませんでした。勃起の問題の多くは血管や神経の問題と関わっており、亜鉛不足が主な原因であることはまれと考えられます。
食べ物からの摂り方
亜鉛は、動物性の食品に多く、吸収されやすいのが特徴です。
- 牡蠣:食品の中でも飛び抜けて多く、100gあたり10mgを超えます。「牡蠣は精がつく」という言い伝えは、亜鉛の多さと重なります。
- 牛肉(赤身)、豚レバー、うなぎ、カニなどの魚介類
- 卵、チーズ、大豆製品、ナッツ類、玄米
植物性の食品にも含まれますが、穀類や豆類に含まれる「フィチン酸」が吸収を妨げるため、動物性食品より吸収率は下がります。
摂りすぎの害
亜鉛の摂りすぎで「銅」が欠乏します
亜鉛を大量に摂り続けると、腸での銅の吸収が妨げられ、銅が欠乏します。銅が不足すると、貧血や白血球の減少、さらに手足のしびれや歩きにくさといった神経の障害が起きることがあり、神経の障害は回復に時間がかかることもあります。栄養機能食品として亜鉛を表示する製品には、1日あたりの量に15mgという上限が設けられ、「摂りすぎは銅の吸収を阻害するおそれがある」という注意書きが義務づけられています。
- 一度に大量に摂った場合:吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸症状が起きることがあります。
- 長期間の大量摂取:上記の銅欠乏のほか、1日100mgを超えるような大量の亜鉛を長年摂っていた男性で前立腺がんが多かったという観察研究もあります。
- 見落としやすい摂取源:複数のサプリメント(マルチビタミン、妊活サプリ、精力系サプリなど)の重ね飲みや、亜鉛を含む入れ歯安定剤を大量に使い続けた例で、銅欠乏が報告されています。
飲み合わせに注意が必要な薬
- 一部の抗菌薬(テトラサイクリン系、ニューキノロン系):亜鉛と一緒に飲むと、お互いの吸収が妨げられます。飲む時間をずらす必要があるため、薬剤師に確認してください。
- ペニシラミン(関節リウマチなどの薬):吸収が妨げられることがあります。
- 一部の利尿薬:尿からの亜鉛の排出を増やすことがあります。
サプリメントを選ぶ場合
- 「亜鉛として」の量:グルコン酸亜鉛などの化合物の重さではなく、亜鉛そのものが1日あたり何mg含まれているかを確認してください。
- 他のサプリとの合計:マルチビタミンや精力系・妊活系のサプリにも亜鉛が入っていることが多いので、すべて合計して上限を超えないようにします。
- 「栄養機能食品」の表示:1日量が国の基準(15mg以下)の範囲内にあることの目安になります。
- 表現:「男性ホルモンを増やす」「精力がつく」など、病気や体の機能への効果をうたう表現は、食品では認められていません。
製品選び全般のチェックポイントは品質の見分け方、表示のルールや医薬品成分の混入については「精力剤」「強壮剤」の種類と区分をご覧ください。
こんなときは医療機関へ
- 味が分かりにくい、口内炎や皮膚炎が治りにくいなど、亜鉛不足のサインが続いている。血液検査で確認できます。
- 性欲の低下、疲れやすさ、気分の落ち込みなどが続き、男性ホルモンの低下が気になる。泌尿器科などで、男性ホルモンの値を直接調べることができます。
- 子どもを望んでいるのに1年以上妊娠に至らない。男性側の検査も早めに受けることが大切です。
- 亜鉛のサプリメントを長く飲んでいて、貧血を指摘された、手足がしびれるなどの症状がある。銅欠乏の可能性があります。
参考文献
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書. 2024.
- 厚生労働省「栄養機能食品の規格基準」. https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/hokenkinou/hyouziseido-3.html
- 日本臨床栄養学会. 亜鉛欠乏症の診療指針2024.
- Prasad AS, Mantzoros CS, Beck FW, Hess JW, Brewer GJ. Zinc status and serum testosterone levels of healthy adults. Nutrition. 1996;12(5):344-348.
- Koehler K, Parr MK, Geyer H, Mester J, Schänzer W. Serum testosterone and urinary excretion of steroid hormone metabolites after administration of a high-dose zinc supplement. Eur J Clin Nutr. 2009;63(1):65-70.
- Schisterman EF, Sjaarda LA, Clemons T, et al. Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility Treatment: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2020;323(1):35-48.
- Leitzmann MF, Stampfer MJ, Wu K, et al. Zinc supplement use and risk of prostate cancer. J Natl Cancer Inst. 2003;95(13):1004-1007.
- 医薬基盤・健康・栄養研究所「『健康食品』の安全性・有効性情報」. https://hfnet.nibn.go.jp/
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